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【グルメの迷宮】日月潭チョウザメ三昧舌鼓◆台湾[鱘園美食餐廳]

12/12/28 |散歩の達人編集部より|

 なんとなく習慣化しつつある毎年の台湾道楽、台中遠足である。

 歴史的経緯から、レトロな和の風流を残す街並み。普通の個人旅行なら、ボラれることもほぼなく、気を張って警戒しないで済むユルさ。ちょいと孤高を好むなら、台北をはずしさえすれば日本人とまず会わないですむ異境感も心地いい。親日的かつラクチンな異国なのである。そーいう海外旅行ばかりしているのもアレなんですけどね。

 今回(秋)は台中から足を伸ばし、お隣の県にあって風光明媚といわれる日月潭に足を伸ばした。台湾新幹線台中駅から車で1時間弱。台湾のほぼ真ん中に位置する山上の大きな湖である。夕暮れと日の出時にはもやがかかる事が多く、その風景はため息が出るほど幻想的で美しい。台湾新婚旅行のメッカだけある。日本に入ってくる情報だけだと、大自然に抱かれた鄙びた秘境風なのだけど、実際のところは観光地でありまして、バスの停留所などポイントになる場所は、ニッポンの温泉街のノリでざわざわしている。

 

 宿泊先は、気張って高級リゾートホテルとして評判の「ザ・ラルー涵碧樓」。世界的な建築家ケニ・ーヒルによる名建築。「お、それ観たいな行きたいなあ」と挙手した友人の建築家氏と、ウチの連れ合い様との凸凹3人旅である。

 ホテルは湖に突き出した半島風の高台突き当たりの崖に、溶け込むようにして建ち、シンプルかつ水平軸を強調した造詣がビューチフルである。

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 1階平屋風のフロントのある階が実は宿泊施設の最上階。ここから下数層にわたり、客室が崖伝いにずらり並ぶ。全室きっちり造り込まれた快適ゆったりなスイーツで、専用バルコニーから視界を邪魔する物なく、日月潭の湖が一望できる次第。冬場は夜冷えるので、部屋に暖炉まで付いているんですぜ。もはや台湾ではございません。

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 建築家氏がうなるのも納得の、見た目&泊まり心地もバツグンな大人ホテルでありました。あー、たっぷり稼いでまた行きたいぞ。

  しかし、このホテル。弱点もないわけではない。食事の評判がイマイチなのである。もともとリゾート・ホテルの料理は、異国の客にもなじみやすいよう、地元料理でも万人受けする味にアレンジするものだし、席料の分だけ値段も張る。結局朝食のビュッフェしか食べなかったのだけど、くたびれ気味のレタスと、味気ない粥をすすっただけで、無理して食べなくて正解だったかもねえと思ったものである。

 そんな事情から、夕飯は居心地バツグンのホテルをあえて飛び出した。向かったのは現地ならではの、異国の観光客なんか訪れそうもない、レアなアレを味わってみたいと、ネット検索しまくって見つけ出しておいた一軒。歩ける距離ではないゆえ、夕方ホテルでタクシーを呼んでもらい、わくわくどきどきで出発である。

  ぶっ壊れた日本語を明るくしゃべる運転手さんの操る車は、すぐに日月潭の湖の袂を離れて山道を北方へ向かう。

 日が暮れた山道は真っ暗で、車のライトの照らす前方には一向に店らしきものは見えてこない。寡黙な山道をぐねぐねと進む事約20分後。3人顔を見合わせてかなり心細くなった頃、タクシーが脇道にそれた先に、赤い大看板が見えてきた。周囲は木々に包まれていて、他に何もない。タクシーが店の敷地に入る。「鱘園美食餐廳」に到着である。

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 ここは活きの良い鱘龍魚(シンロンユィ)料理の専門店。鱘龍魚とはチョウザメのこと。キャビアの採れるあの魚である。チョウザメは海水魚かと思ったら淡水魚もいる/太古から皇帝の魚と称され、台湾ではめでたい席などで賞味するご馳走/卵=キャビアは食さず、身をまるっと平らげる/ということらしいのだけど、付け焼き刃な知識なので、間違ってたら對不起(ゴメン)。

 この店では、その鱘龍魚を水質の良い山中を選んで養殖している。こんな人里離れた場所にあるのも、魚の環境を優先したからに他ならない。現に店の横奥に、子供用プールぐらいの浅くて四角い養殖池が控えている。

 食堂の入口横にカウンターがあり、主らしいオジサンとオネエサンさんが肘をついてのんびり顔で待ち受けていた。カウンターの前のコンクリ敷きの床に、真っ黒い黒犬の親子が飼い主と同じような顔つきで眠そうに座り込んでいる。タクシーから降りて近づいても、ワンともすんとも言わない。何だか椎名誠センセイが書きそうな風景である。

  カウンターに向かってニーハオと挨拶。オジサンうなずく。中国語以外まったく通用しない世界である。

 ここの注文システムはちょっと独特で、運転手さんのぶっ壊れた日本語および身振りを交えてわかってきたのは、チョウザメ料理は基本1人1000元(約2700円)、3人なら3000元で人数分相当のサイズのチョウザメが食べられる(追加料金で大盛も可)というものだった。料理はカウンターのメニューに記された調理方法から数種、好みで選ぶ。揚げたり、炒めたり、鍋に刺身まで17種類もあるからなかなか悩まされる。メニューに漢字表記しかないし。

 メニューに調理例の写真があったので、主のアドバイスと食欲のおもむくまま4種類程選び、おまけに野菜料理をちょいと追加して注文完了、食堂に入る。中は広々とした殺風景な集会所風で、室内に8人掛けの丸卓が並んでいる。客は我々異国の好事家凸凹3人組のみ。入口手前の席の辺りだけ灯りを点けている。

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 ホテルからあらかじめ予約を入れてもらっておいたので、待ってくれていたらしい。あとで調べたら、店は夜は8時までと店じまいが早く、どうやら昼間に大人数でどっとくりこんで、わいわい食べていくのが、本来のスタイルのようだった。

 壁際のガラス戸から冷えた台湾ビールを持ち出し、とりあえず乾盃。すると外で主が呼んでいる。出てみると養殖池の前で鱘龍魚をにこやかに抱えていた。思ったよりデカイく真っ黒けである。古代魚、生きた化石とも言われるだけあって面構えがごつい。腕の中でもがく鱘龍魚を床に置き、写真撮るならどうぞと身振りで主。謝謝と礼を言い、しゃがんで撮っていると、先ほどの子犬が目敏く近づいてきた。しゃぶりつこうとする子犬を主が笑ってはたく。味を知っているのだ。

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「どんな味かさっぱり見当がつきませんね」「ええ、さっぱりさっぱりです」「料理の出来がさっぱりだとイヤだわ」

 などとビールを酌み交わし談笑しているうちに、山菜の炒め物(素朴で美味)に続いて、さばきたての鱘龍魚料理が次々と大皿で運ばれて来た。まずは、皮をゆがいて甘酸っぱいソースであえたもの。上に鰹節がふりかけてある。皮が硬すぎず柔らかすぎずの独特のプリプリ感で心地よく、臭みなど一切なく上品な味わい。

「うーむ」思わず3人で顔を見合わせて、にんまりとうなる。大アタリである。

 料理は台湾生姜と地物のハーブが隠し味の乙な炒めもの、

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 さらに揚げものに甘酢ソースをかけた酢豚風のひと品と続く(写真8)。

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 料理の味付け、盛りつけもなかなかのものだし、何といっても魚の白身が実に美味い。引き締まっていてクセがなく、食感、味ともに上々である。隅におかれた大きなジャーからご飯をセフルでよそい、食い合わせるラフさもまたよし。

 最期がクコの実やナツメをたっぷり投入した薬膳風鍋。魚のヒレ部分の軟骨のほろっとした食感も美味しく、満腹寸前の腹を、滋味に富んだスープがすっとまとめてくれる。

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ああ、台湾の食の神様、参りました大満足です。 

 しばらく食休みをして、身動きがとれるようになってから店を出る。

 店の主の手を振り、待っていてくれたタクシーに再び乗り込む。動き出した車の後ろを振り向くと、食堂の電気はすでに消されていた。先ほどまでの美味の饗宴が、まるで一瞬の花火の幻のように思える。

 行き着くまでの車代等に目をつぶれば、たっぷり飲んで食べて1人三千数百円。食のクオリティーを考えたら、申し訳ないようなお値段である。次回は美味い醤油を持ち込んで刺身に挑戦だな、などとすでに思っていて、台湾道楽は当分続くのである。

 

(写真・文=奥谷道草)

 

 

DATA  

鱘園美食餐廳

鱘龍魚料理1人1000元他色々。南投縣魚池郷東光村水尾巷30號  営業時間11:00~14:00 16:30~20:00 無休。http://0492880059.tw.tranews.com/