主なカテゴリ
  • 時刻表
  • 雑誌
  • 書籍
  • 児童書
  • 新書
  • 新聞
  • 会社案内 企業・書店様へ

ショッピングカートを見る

トピックスニュース

【グルメの迷宮】岡山台南舌鼓◆台湾[太新羊肉総店・珈琲地図]

10/12/01 |散歩の達人編集部より|

 岡山に遠出の散歩をしてみた。国内にあらずして、台湾の岡山(カンシャン)である。
 台湾には、戦前の半世紀にわたる日本の統治時代、和風に改められた地名が高雄とか松山とか、幾つもある。それが今も残っているのだ。岡山もそのひとつ。
 羽田から台北まで3時間ほど機上の中年のヒトとなり、空港から台北駅へ車で移動。台湾新幹線に乗り換え100分ほど快適に揺られて台南に到着。まず宿に向かい、翌日、在来線用の台南駅(時代色豊かでとてもよい)から鈍行に乗り、30分ほどで岡山駅にたどり着く。

 中規模の都市である。観光客はほぼ皆無。フツーの旅行ガイドには見当たりもしない。なんでそんな場所にやってきたかというと、ディープな台湾新幹線ガイドの2ページほどの記事に、偶然目が止まってしまったからである。
 羊肉料理が名物とな。市場が楽しいとな。しかも以前から気になっていた台南の近くときている。そこで台風シーズンを避けて出かけてみた次第。いい加減もはなはだしい。

 岡山駅は台南駅同様、懐かしい佇まいであった。生温く眩しい冬の日射しの降り注ぐ南方の街はどことなくのどか。規模は熱海ぐらいか。
1.jpg

 駅前に町の名物を紹介する大きな簡易地図があった。一見して目につくのは、羊の顔のマーク、マーク、マーク。20近くある。全部羊料理の店なのだ。おおすごい。まさに名物である。なぜか同じ位セブン・イレブンのマークも散りばめられている。目印代わりなんだろうけどこっちも岡山名物みたいである。

 とりあえず駅前方に延びる民有路という大通りに進む。大看板の立ち並ぶここをふらふら歩いていくと、じきに大きな十字路にたどり着く。これを右折。間もなく通りの左手に、公団住宅みたいな建物が見えてくる。おお、あったぞ今度は市場だ。
2.jpg

 

 

 

 

 

 岡山鎮文賢市場という、生鮮食料品メインの市場である。軽い気持ちで踏み込んで驚いた。とてつもなく広いのだ。新鮮な肉、並ぶ魚、カゴの野菜。それに腸詰めや惣菜の数々。
3.jpg

 市場は建物の外にもぶわっと拡がっていて、しかも商店街とつながっている。週末の昼前という時間もあったのか、大変な賑わいようである。それでいてギスギス感はない。ぶらつくだけで軽く1時間経ってしまうアジアの迷宮。あーこれはたまらん。散歩者には桃源郷である。

 あっというまに昼時となり、入ってきた市場の正面入口に戻る。実は入口脇に、羊料理の店を見つけておいたのだ。通りをはさんでうまそうなのが2軒。どちらも地元の善男善女であふれかえっている。
 うーむと悩んだ末に、市場の並びにある方を選んだ。後で調べたら、ディープなガイドブックでも同じ店を紹介していた。「太新羊肉総店」である。ちとくやしかったが場所が判りやすい上に、佇まいからして美味そうなのだから仕方ないか。飾りっ気はないがしっかりした造りの店で、2階にも飲食席があってなにげに大きい。地元の人を相手に、実力でのしあがってきた雰囲気が漂っている。
4.jpg

 「にいはお」とぎこちなく挨拶しつつ、ジャパニーズスマイルを浮かべ、混雑する店内に入り込む。空いている席を見つけて腰掛けて店内を見渡せば、壁に張り出されたメニューは、現地の漢字表記のみ。ともかくほぼ全てに「羊」の文字が付いているのはわかる。ええと……。
5.jpg

 言葉が通じないと見た店員が、注文を描き込む下敷きみたいなボードと、指で消せる色鉛筆を添えて差し出す。書いてオーダーするよろし、というわけ。これいいシステムだなあ。
6.jpg

 近くの席で、家族客が鍋をつついてる。実によさげだが、注文すると他のものまで口が回らないので、麺や汁物、炒め物など細かい品々を注文。あとピーチュー(ビール)くださいね。

 まずやってきたのは「羊肉麺線湯」。ゆがいた羊バラ肉を載せた、細麺汁ソバである。
71.jpg

箸を握ってさっそく一口。
 ハオツー!(うまーい!)
 中国醤油ベースのまろやかなスープである。滋味に富んだ味というのだろう、ほのかに香る漢方薬の風味が、羊独特の風味と合わさり、いい塩梅にまとめあげている。
 でもこの肉、味付けがやけにサッパリしてるなと思ったら、肉用のタレを入れた小皿が付いていた。これがまたクセモノで、岡山特産の辛くない豆板醤を用いている。肉をちょいとつけると、まろやかかつ自然な甘味が肉のうま味をひょいと引きだし、スープの味わいにも奥行きを与えるのだ。
 麺は、ビーフンに似た細麺で、細くても腰のある食感が心地よい。肉とスープをさりげなく引き立てる、実力派の脇役である。

 お次は「大骨湯」で、羊の骨付き肉のスープ。
72.jpg
文字通り、生姜をまぶした、茹でた極太の骨付き肉が、茶褐色のスープから思いっきりはみ出して漬かっている。こびりついた肉をほじり、これまたタレをつけながらパクリ。ビールをごくり。品書きに新しく書き加えられている「羊脳湯」にも挑戦。親指大の脳みそが入ったスープで、あっさりとして品のいい白子味であった。
73.jpg

 スープが一応な味なのが玉に瑕であったが、店の雰囲気ともども来て良かったあと、真っ直ぐに思える満足感である。今度は鍋を食べにこよっと。他の羊料理店にも行ってみたいなあ。
 再来を誘うように、口内にこうばしい羊肉の香りがいつまでも残るのだった。

  *   *   *

 ずいぶん長くなっちゃったけど、ついでに台南でみつけた某店にも触れておきたい。
 台湾といったら最大の都市である台北が一番人気だが、日本と直行便でつながっていることもあり「とりあえずビールね」的な感じがしなくもない。それに日本的なものと親密すぎて、あまり異国を訪れた感じがしない。観光客の身勝手な言い分なんですけどね。

 海外旅行で、日本語の聞こえない世界に身を置き、変な汗をかきつつ散策するのを好む向きには、ものたりないものがある。
 その点台南は、街はきっぱり常夏の異郷である。懐かしい雰囲気が残っているのは、少し行きにくい場所にあるとか、台湾で最初に首都の置かれた古都であることも大きい。しっとりのんびりした風情が◎である。
 どことなくベトナムの地方都市を思い起こさせる街並みは、長めの散歩にもってこい。凹凸の多い歩道を歩き回り、路地などに首をつっこんで、おたおたしているうちに日が暮れる。
 日が暮れてからがまたお楽しみだ。台湾料理の本場としても知られる街だけに、街のあちこちに露店風の飲食店がずらりと軒を連ね、夜が本番となる。毎晩、大きめの夜店も定期的に開かれているし、値段も手頃。

 日本で、台南を大きく取り上げたガイドブックはまだないが、現地では食べ歩きのガイドブックが幾つも並んでいる。ネタはあるのだ。台湾式マッサージの密集地帯があったり、大きな大学があるせいか、若者向けのオツな小店もできはじめている。自分の目と足であれこれ発見したい向きには、絶好の穴場と言える。
 しかし、不満がないわけでもない。「料理店の連なる台湾料理のメッカ」とか紹介されている割には、すげえ美味い!と瞠目する味になかなか出会えない。ヒットは多いがホームラン級がないのだ。露店の歩道の椅子に腰掛け、身振りと筆談で注文をこなし、まったり台湾ビールを煽るのはとても楽しい。だけどなんである。

 何かないかねえ。散歩疲れの足を引きずり(それでも歩く)、台南中心部の南西、友愛市場という市場のある筋を通りかかった時のことだ。正面ガラス張りの小気味のいい珈琲店が目についた。看板に『珈琲地図(COFFEE ATLAS) 』とある。あまり台南で見かけないシンプルでモダンなテイスト。興味を惹かれ入ってみた。
8.jpg

 店内は奥に細長く、高い天井と壁が白で統一されている。向かって右に3メート近い巨大な台湾地図が貼ってあり、中程にはソファや椅子。突き当たりがカウンター席となっている。
 カウンターの向こうに、インテリジェンスをたたえたまなざしの眼鏡の男性が、にこやかに立っていた。
 主人の頼(lai)氏である。地元台南ッ子で、地図デザインに写真、ライターもこなすという多彩なクリエーターだった。それだけに地図への思い入れはただならぬものがある。カウンターには旧い台湾地図が敷かれ、カウンター脇の棚には、台湾の地図や図鑑がずらり。日本植民地時代の台湾の写真図版集とか、文章が読めなくても興味津々である。
9.jpg

 この店は本業の合間をぬって、今年8月にオープンしたばかりだとか。店内デザインも自作。コーヒーは、台北に住む知人の日本人を経て習得したそうで、円錐形パーパードリップで1杯づつ丁寧に手入れしてくれる。
 コーヒー豆の種類がまた半端でない。20種類近くはある。
 そりゃ台南には、コーヒーを飲ませる店ぐらい、幾つもある。しかし、食事やスイーツの添え物のポジションを出るものではなく、ホテルであっても美味いやつには出会えなかった。スターバックスがあることはあるが、せっかくなら地元密着型の本格派を飲んでみたいじゃあーりませんか。『珈琲地図(COFFEEATLAS)』はまさにそういう店であった。これだけ本格的にコーヒー豆をそろえた店は、台南では初めてだろうねと頼氏。ちなみに、普通に会話を交わしているようですけど、実際は英語に堪能な頼氏と、カタコト英語と筆談で、変な汗かきながらのやりとりですから。

 まず、数種類あるブレンドからオーソドックスなのを1杯。まあ普通といったところでしょうか。美味しいけどヒットぐらい。
 続けてオススメのオーガニックのガラパゴス産コーヒー豆をお代わり。ガラパガスの豆なんて、東京でも飲んだことないんですけど。
 ジノリの器に注がれて供された、香しいコーヒーをずずっとすする。
10.jpg
 カキーン!
 頭の中で、バットがボールの芯を捉え、豪快に打ち返す快音が鳴り響いた。酸味甘味苦味が繊細かつ複雑に花開き、喉の奥へするりと抜けていく。実に美味いぞ、ホームランだ。
 中国茶を美味く入れる作法を持つお国らしい、至福の一杯であった。
 地図とコーヒーがテーマの店なんて、それだけで「散歩の達人」っぽいじゃないですか。
 あえて紹介する次第である。

   *   *   *

 と、まあ最後まで長々と読んでくださった貴方。お疲れさまでした。これはもう、自分へのご褒美に、台南に行くしかないでしょうねえ。
くれぐれも台風シーズンにはご注意を。

(写真・文=奥谷道草)

DATA

太新羊肉総店
「羊肉麺線湯」50元 「大骨湯」小50元 「羊脳湯」60元
岡山鎮維新路2-1 8時30分~(たぶん深夜の)1時30分

珈琲地図(COFFEE ATLAS)
 コーヒー各種150~200NT$ぐらい
月~土の12時~19時 台南市中西区友愛街101号