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すずさんに会いに、あの街へ。

散歩の達人2018年8月号番外編
すずさんに会いに、あの街へ。

公開から600日以上ロングランを続けている映画『この世界の片隅に』。今年の12月には、新規場面を加えたもう一つの映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開されることも発表され、期待が高まっています。

この夏も、『この世界の片隅に』はさまざまな街の映画館で上映されています。『散歩の達人』2018年8月号に特別企画として掲載した、片渕須直監督×のんさんのインタビュー記事「『この世界の片隅に』終わりのない物語の先に。」のおまけ企画として、映画館やゆかりの街を訪ねるコラムを全3回の予定で掲載します。

第1回
『ユジク阿佐ヶ谷』と、阿佐ケ谷の街へ。

2018/7/27

『散歩の達人』は7月号で「中野・高円寺・阿佐ケ谷」を特集しました。その中で取材させていただいた映画館『ユジク阿佐ヶ谷』さんでも、7月28日~8月10日に『この世界の片隅に』が上映されます。

第1回では、『ユジク阿佐ヶ谷』で 支配人の武井悠生さんに上映への思いを聞きました。そして、阿佐ケ谷へ『この世界の片隅に』を観に行く方におすすめしたい立ち寄りスポットも紹介します。

支配人も念願の初上映 ~『ユジク阿佐ヶ谷』~

初日には片渕須直監督の舞台挨拶も(チケットは完売)。


 ――この館の上映作品を考えるのはほぼ武井さんとのことですが、いつもどのように作品を選んでいますか?


武井 自分が観て、いい作品だな、これは観てない人がいたら観てほしいなというもの選んでいます。『この世界の片隅に』は、ずーっと、ずーっと時期を見計らっていたんです。昨年の8月も検討したのですが、ほかの劇場さんとの兼ね合いなどで見送り、今回が初めての上映です。

――『ユジク阿佐ヶ谷』では初めての上映なんですね。

武井
 そうなんです。今年は絶対にやろう、と思っていました。今、ドラマも放映していますが、まだアニメを観たことがなくて劇場で観たほうがいいかなあと思っている方や、「何度も観てるけど、まだこの劇場で観たことがないから観たい!」という方もいて。リピーターで、各地の劇場に足を運んで観ている人が、かなりいらっしゃるみたいです。


――熱烈なファンがいらっしゃるのは、SNSなどでも感じます。

武井
 それだけ愛されているんですよね。あとは「すずさんにスクリーンで会いたい」っていう、アイドルじゃないんですけど、会いに行ける存在っていう感じがあるのかなと思いました。


――武井さんが『この世界の片隅に』を最初に観たのはどこですか?

武井
 『テアトル新宿』さんです。そのとき、一番前の席しかあいてなかったんですけど、前の席でもいいから観たいと思って。そのあと、「絶対に観て!」ってだんなさんを引っ張って連れて行きました(笑)。それくらいの作品って、なかなかないですよね。


――武井さんから観て、どんなところがこの映画の魅力でしたか。

武井
 「すずさんがいる」っていう感覚があったことです。ただアニメーションが動いてるだけじゃなくて、すずさんがちゃんとそこに生きていると感じるから、ファンの方の「会いに行きたい」っていう感覚は私もすごくわかります。上映できることになって、「これですずさんをここに召喚できるんだ!」っていう気持ちで(笑)。DVDになったりNetflixなどでも観られるようになりましたが、映画館で観たい人もいるはずだと思って。

支配人・武井悠生さん。自身もかつてコマ撮りアニメを作っていたという。


――『ユジク阿佐ヶ谷』さんは2015年オープンで、『この世界の片隅に』のクラウドファンディングにも参加されている『ラピュタ阿佐ヶ谷』さんの姉妹館ですね。でも、そもそも近年「映画館がオープンする」ということは、かなり貴重なことかと思います。


武井 冒険というか、賭けですよね。もともとこの映画館の上に「アート・アニメーションのちいさな学校」というアニメーションの学校があって、経営が同じなんです。そこのオーナーが映画を作ったけどかける映画館がなくて、もともとは学校のスタジオで試写室もあったここを、映画館にしたんです。

――「ユジクの月1アニメ」などよくアニメ作品も上映されていますが、そういうルーツが関係あったんですね。

武井 ありますね。『ラピュタ阿佐ヶ谷』もつくられた当時は頻繁にアニメを上映してたので、その系譜もあります。『ラピュタ』は『マイマイ新子と千年の魔法』の上映などでも片渕さんとのご縁があったのですが、フィルムしか上映できないこともあって、『ユジク』でやることになったんです。

名物の上映作品に合わせた黒板アート。新作は7月28日に制作予定だ。


――阿佐ケ谷という街じたいも、アニメーションの街という一面がありますね。


武井 そうですね。アニメのプロダクションなども多いので、そういうつながりは作りやすいのかなと思います。余談ですが、アニメの学校に片渕さんが講師として来られていたことがあって、まだ『ユジク』ができる前、『この世界の片隅に』のクラウドファンディングがこれから始まるという時期に、ここの試写室にまだ声も入っていないパイロットフィルム前の映像持ってきてくださり、上映したことがあったんです。私もその場にいたんですけど、動いている映像を観て鳥肌が立っちゃって。これはもうすごい作品ができるな、と思いました。

――それは貴重な体験ですね。完成版を観たときはどう感じましたか。

武井 最初に観たときはまだ声がついていなかったので、のんちゃんの声が本当にマッチしていて、「すごい、アニメーションに声を入れるってこういうことなんだ」と思いました。こんなに「命を吹き込んだ」っていうことを実感したのは初めてで……びっくりしました。あとは、虫がたくさん出てくるのも印象的で。一生懸命、そこで生きている、生命力の象徴をちゃんと描いているのが素晴らしいと思いました。ストーリー展開のテンポは速いのに、生活が丁寧に描かれていてすごいなと。

――『ユジク阿佐ヶ谷』で観る良さはどんなところでしょうか。

武井 座席数は41、補助席を含めても50席の小さい劇場ですが、スクリーンとの距離がすごく近いんです。一番前の席は観づらいという方もいると思いますが、座るとほとんど余白がないような状態で観えるので、その世界に入ってしまえるような臨場感があります。あと、他の映画でも言えることですが、時期が外れてしまったけど見逃していて観に来たという人は、たくさんの人と一緒に観ることで、「自分と同じように、この作品をわざわざ映画館に観に行きたいと思う人がいるんだ」と感じられることも、うれしいかもしれないですね。

最前列はスクリーンが目の前。コンパクトな劇場で後ろの席でも臨場感がある。


――映画館で観ると、「体験」という感じが強まりますね。


武井 上映も長く続いていますが、“1回で途切れない”作品だと思うので、私自身も何回もやりたいし、上映を続けていければな、と思います。「また今年の夏も会えるんだね」っていう感じにできたらいいですね。

――なんだか、ときどき会う親戚みたいですね。

武井 ほんとにそうですね(笑)。元気にしてるかなあ、みたいな。

――満を持しての初上映、楽しみです。ありがとうございました。

『この世界の片隅に』の上映時間などはHPで!
ユジク阿佐ヶ谷 https://www.yujikuasagaya.com/

阿佐ケ谷と広島は似ている?
~『広島鉄板☆バリュー兄弟 こめちゃん』~

阿佐ケ谷にはなぜか“広島のお店”がたくさんある――。阿佐ケ谷エリアを特集した7月号でも、「阿佐ケ谷にカープ酒場、なにゆえに?」というテーマで記事を作りましたが、阿佐ケ谷には、カープファンならずとも広島に触れたい方にはぴったりのお店がいくつもあります。今回はその一つ、今年5月5日にスターロードにオープンした『広島鉄板☆バリュー兄弟こめちゃん』へ、店主のこめちゃんこと米田恵一さんの作るお好み焼きを食べに行きました。

『ユジク阿佐ヶ谷』のそばには、飲み屋が集まるスターロード。


――こめちゃんは広島のご出身ですよね。豪雨の被害が心配でした。


こめちゃん 実家は全然大丈夫だったんですけど、地元の街が矢野東(広島市安芸区)っていうというところで、被害の大きかったところがめちゃめちゃ近所で。

――矢野は呉線沿いですね。

こめちゃん そうそう。で、やっぱり心配じゃけえこの前帰ってきたんですよ。土砂まみれになった友達のところに手伝いに行って。今ここでも、募金の箱も置いてます。

――『散歩の達人』の7月号でも、阿佐ケ谷に広島の方がやっているお店が多いのはなんでだろう?という記事を作りましたが、阿佐ケ谷と広島が似ていると感じることはありますか。

こめちゃん 街自体が似てるとは思わないけど、反骨精神みたいなのがあるかな。広島も“一番の県”かっていったらそうじゃないし、阿佐ケ谷も高円寺・荻窪と濃い街に挟まれてる。でも、阿佐ケ谷で働いとる人は、高円寺・荻窪には負けるかい!阿佐ケ谷は素晴らしい街だっていう気持ちがあるような気がしますね。じゃけえ、阿佐ケ谷を盛り上げよういうか、飲食店もみんな仲よくてお互いの店を行き来して。広島の人の広島愛と、阿佐ケ谷の人の阿佐ケ谷愛の強さは似とる気がする。

――このお店からも、お好み焼きはもちろん、「黒田ハイボール」などメニューからも広島愛を感じます。この「がんばる子に! 花ソーセージ」というのは何ですか?

こめちゃん ご当地食品で、広島では“弁当に入ってるやつ”です。俺の弁当にもめっちゃ入ってました。

――花びらの形がかわいいですね。あ、これを作っている「福留ハム」さんは草津(広島市西区)の会社なんですね……!

こめちゃん 昭和27年からあるみたいです。いろいろおすすめはあるけど、あんまり食べると“おっこん”食べられなくなるけえ!

がんばる子に!花ソーセージ450円。

広島の酒・賀茂鶴のソーダ割り「黒田ハイボール」350円と一押しの焼き白レバー680円。


――お好み焼きを「おっこん」って呼ぶことがあるんですか?


こめちゃん お好み焼きのニックネームみたいなもんかな? 最初は女子高生とかが言ってたんじゃないかなあ。東京だと広島のお好み焼きを「広島焼き」っていう人も多いけど、僕からは「広島風」とも「広島焼き」とも言わないですね。「お好み焼き」です。関西風はつまみとかおかずみたいなかんじですけど、僕らはこれが食事ですね。

お好み焼きを焼くこめちゃんと、関西出身の妻・恵理子さん。


――そもそも、自分でお好み焼き屋さんを始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。


こめちゃん もともと「THE☆バリュー兄弟」っていうバンドをやってて、メンバーもみんな広島なんです。ライブ中にお好み焼きを焼いて、それをみんなに食べてもらったりするんですね。だったらもう、バンドで店出したらいいんじゃないか?となって。

――最高のライブですね!広島には「○○ちゃん」っていうお好み焼き屋さんが多い気がします。

こめちゃん そうですね。戦後、夫が家におらんとき、奥さんが軒先を改装してやりはじめたのが広島のお好み焼きのルーツじゃけえ、「○○ちゃん」っていう名前でおばちゃんが焼いてる店が多いんですよね。そういう広島の歴史とか文化を伝えたいっていうところはあって。広島だと平和学習っていうのもあるし、8月6日は登校日でみんなで黙とうもするし、ばあちゃんとかは被爆体験してますから。

――こめちゃん自身は、お好み焼きをどこで食べていましたか?

こめちゃん 家の隣の隣がお好み焼き屋だったんで、そこはもう、中学のときから地元離れるまで週5くらいで行ってましたね。いろんなお店を食べ比べてそこが絶品、とかじゃないけど、世の中で一番旨いと思っとるお好み焼き屋はそこです。

肉玉そば750円。お皿と箸じゃなくて鉄板からヘラで食べるいう広島流に挑戦するも上手くできず。


――子供のころから“自分の店”があるんですね。広島のお好み焼きは、焼けるまでの時間の長さも味わい深いです。


こめちゃん みんな、ソースまみれになったジャンプ読みながら待つんですよ(笑)。

――ここではカープ戦を観ながら待てますね! ごちそうさまでした。

広島鉄板☆バリュー兄弟 こめちゃん
17時30分~翌2時(土・日はカープのデイゲームがある場合はその時間に合わせて開店)、不定休。
杉並区阿佐谷北2-3-2 ☎03・6314・1090

夜の喫茶店で『この世界の片隅に』を発見
~『よるのひるね』~

『こめちゃん』を出て、駅に向かいながらも「もう1軒」。ユニークなイベントがしばしば開催されている、門田克彦さんが営む喫茶店・バー『よるのひるね』へ。

うずしおパイセット850円は、650円以下のドリンクにパイが2枚付く。


――メニューの「うずしおパイセット」が気になっていました。門田さんは四国のご出身ですか?


門田 愛媛の今治なんです。「うずしおパイ」は地元の名菓で広めたいなと。

――本棚に漫画『この世界の片隅に』がありますね。瀬戸内海を挟んだ向こう側の広島が舞台ですが、映画はご覧になりましたか。

門田 2回観に行きましたよ。映画を2回観に行くって、今までに4、5回くらいしかないんですけど。1回目は一人で『テアトル新宿』に行って、すごく感動して、妻にも「これは観なさい!」と言って一緒に行きましたね。

――『ユジク阿佐ヶ谷』の支配人さんも同じことをおっしゃっていました! 映画館で観たとき印象的だったことはありますか。

門田 観に行った回が満席で、僕がその回に入れる最後の一人だったんですよ。だから一番前の一番端っこだったんですけど、その回は終わったら拍手が起きてました。

――この漫画は門田さんのものですか?

門田 僕のです。原作は映画を観てから読んだんだけど、原作からやっぱりすごかったんだ、と思いました。忠実にやっている映画なんだなと。

――『ユジク阿佐ヶ谷』さんで映画を観て原作が気になった方には、ぜひこちらでひと休みしつつ、漫画も手にとってほしいなと思います。

よるのひるね
18時30分~翌2時、火休。
杉並区阿佐谷北2-13-4 ☎03・6765・6997

http://yoruhiru.com/

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