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今月の一句

「ジパング倶楽部」会員様から投句いただいた作品を、選者の評とともに掲載します(敬称略)。

毎月下旬更新。

  • 特選に選ばれた作品は、氏名、住所(都道府県名)とともに本誌に掲載します。
  • 写真はイメージです。

選者

黒田杏子(くろだももこ)

東京女子大学入学と同時に山口青邨(せいそん)に入門。卒業後、定年まで博報堂で働く。『広告』編集長などを務め、瀬戸内寂聴をはじめ多くの文化人と親交を結ぶ。30歳から「日本列島桜花巡礼」を単独ですすめ、58歳で満行。「桜と巡礼」の俳人としても知られている。

  • 黒田杏子

今月の一句 応募要項

「今月の一句」は、お題に沿った俳句作品をお一人様3句まで(お題ひとつにつき1回限り)ご応募ください。採用者には、QUO(クオ)カードを進呈します。

11月のお題/木枯らし(9月10日締切。ハガキの場合は当日消印有効)
12月のお題/手袋(10月10日締切。ハガキの場合は当日消印有効)

  • 特選に選ばれた作品、氏名、住所(都道府県名)を本誌に掲載します。

入選作品発表

8月のお題:浴衣

【総評】
浴衣は日本人の衣生活のなかで、もっとも基本的なもの。「古浴衣(ふるゆかた)」という季語は、洗って洗って着古した浴衣のこと。洗いこんで柔らかくなった木綿の浴衣地は赤ちゃんのおむつになり、雑巾になり、ぼろぼろになるまで暮らしのなかに生き続けました。浴衣はそれぞれの家で反物の浴衣地を買って仕立てるものでした。浴衣は昔、木綿などの天然素材が中心で、俳句にも例句がたっぷりありました。今回の応募作、それぞれに存在感があり、立派でした。

特選

なに着ても似合ふ子殊に藍浴衣  東京都 酒井 努(91歳)

お孫さんを詠まれている句だと思います。「なに着ても似合ふ子」。自慢のお子さんをこのように詠まれた、91歳の作者のお気持ちがよく伝わってきます。なにを着ても似合ふ子とまず書かれて、その後に続けられた言葉が、「殊に藍浴衣」です。近頃はカラフルな浴衣が主流ですが、藍浴衣こそ、浴衣のなかの浴衣なのでした。

秀句

帯の色変えて浴衣の三姉妹  神奈川県 阿部光子(79歳)

愉しいですね。三人姉妹が同じ柄の浴衣を着て、にこやかに勢揃い。帯の色だけがみな異なるのです。いかにも三姉妹らしいおしゃれ。三人姉妹の仲の良さ。日頃からのお付き合いの深さが思われて、読み手のこころも弾んできます。こういう句は作者の回想の句であってもよろしいのです。

浴衣着て浴衣まつりの姫路城  神奈川県 前川喜美子(72歳)

この句、なんといっても「姫路城」の固有名詞が効果を発揮しています。日本の名城のなかでも人気抜群の美しいお城です。その姫路城で「姫路ゆかたまつり」が開催されていることを私は知りませんでした。そのお城の催しに浴衣を着て行かれた。素晴らしいことですね。新鮮で印象深い句となっています。

おむすびと浴衣一枚旅の友   滋賀県 野口直子(68歳)

お元気であちこちによく出かけられる方の作品と思います。「おむすびと浴衣一枚」を旅鞄に入れて……。「浴衣一枚」という表現も、きちんとたためば浴衣はかさばらず旅鞄に収まってしまいます。おむすびは、梅干しでも昆布でもたらこでも、好きなものを選んで荷物に加えれば旅じたく完了と。

母に派手我に地味なる浴衣縫ふ  神奈川県 小幡尚子(77歳)

「浴衣縫ふ」。この句のよろしさはここにあります。その昔、浴衣を縫って仕立てることは女性のたしなみのひとつでした。浴衣を縫えることが結婚前の女性の必要条件。そんな時代があったのです。母上様には派手、しかし作者にはちょっと地味。おふたりの会話が聞こえてくるようですね。この句に出合ってこころが豊かになりました。

町家からインバウンドの宿浴衣  大阪府 衞藤聰一(80歳)

インバウンドは外国の方が日本に来られる旅行のこと。今日本は世界中の方々が訪れてくださって賑やかです。訪日客の方が町家の宿泊所から浴衣掛けで出てこられた。その光景を詠まれた句だと思います。東京でもとくに「谷根千(やねせん)」、つまり谷中・根津・千駄木あたりには、現在この句さながらの光景が日常的に見られます。

7月のお題:金魚

【総評】
「金魚」。どのようにみなさまが詠まれるか。愉しみに待っておりました。予想どおり、多彩な作品が寄せられ、愉しく選を進めることができました。俳句は誰でも作れます。文字どおり日本の国民文芸。そして、俳句はこの地球上でもっとも短い詩。一行十七音字の世界最短の詩型なのです。こののちも数多くの作品が投句されることを期待しております。今回の「金魚」の句、力作揃いであったこと、嬉しく思いました。

特選

金魚一匹この子と呼びて二人住む  三重県 松川ふさ

金魚とともに生きている女性。「この子」と呼ぶ金魚といきいきと愉しく暮らしておられるその日々が、一行十七音字の世界に鮮やかに詠みあげられています。立派なみごとな秀吟となっています。猫や犬と比べますと、金魚は小さな生き物ですが、作者とこの金魚は対等に生きておられる。金魚の句として新鮮で心に残る句となっています。

秀句

早起きの母金魚見て顔洗ふ  大阪府 伊集院正子(68歳)

お元気な母上様。娘さんもお元気な方と思われます。早寝早起きのすこやかに長命な女性と、いきいきと日々を送っておられる。その様子がよく表現されています。起きられてまず金魚の様子を見る。そののちに顔を洗って娘さんに「おはよう」と言われる。このような俳句は読み手を幸せな気分にしてくれますね

夜更かしの金魚と聴いてゐるラジオ   埼玉県 浜田晴美(65歳)

作者は夜更かしが常の方。金魚は夜遅くまでいきいきと泳いでいる。「ラジオ深夜便」かもしれませんが、ともかく、人間と金魚が夜遅くまでラジオを聴いているというところがおもしろいですし、現代的ですね。夜中まで元気に泳ぎ回る小さな金魚という生き物と、深夜のラジオを愉しんでいる女性。いい情景です。

営みの僅かなゆとり金魚飼ふ   滋賀県 千田 進(67歳)

まず、「営みの僅かなゆとり」。という表現にこころを打たれました。金魚にも高価な種類がありますが、この作者はごく普通の一般的な金魚を購(あがな)められた。金魚の姿を眺めて、こころがほぐれてくる。作者も金魚もこの世をともに生きてゆく仲間。このようなつつましやかな金魚の句に出合えて、私は選者として幸せな気分になりました。感謝しています。

掬へずに一匹もらふ金魚かな  青森県 大川 知(70歳)

とてもよく分かる句です。いろいろやってみたけれど、結局掬(すく)へず終わった。金魚屋のおじさんが同情してくださって、一匹をくださったのでしょう。こういう情況もよくあります。でも、この句のように巧く詠むことはなかなか難しい。誰もがこの作者に共感しますね。掬えなかったのはお孫さんかも知れませんが、こころに残る一行となっています。

のり出して金魚数へる背中の子  京都府 和田紀世美(77歳)

臨場感のある句ですね。幼子が身をのり出して、買われた金魚を数える。元気なお子さんであることがよく分かります。表現にムダがありません。句作のキャリアがある方なのだと思います。新人もベテランも自由に参加投句できる場に、このような味わい深い作品が登場されたこと、嬉しく鑑賞させていただきました。

6月のお題:紫陽花

【総評】
 紫陽花を知らない方は居られないでしょう。紫陽花の名所も各地にあります。鎌倉の明月院は有名ですが、紫陽花は挿し木でも簡単に殖やせますから、道の両脇にこの花をびっしりと植えて、アジサイロードとしているところや、歴史のある寺社の参道をこの花で埋め尽くしているところも多いです。
 よく見ている。その花の風情を知っておられる。そうしますと却って、これという句、新鮮で人の心を打つ句は詠みにくいのかもしれないとも思ったことでした。

特選

紫陽花の褪せし一角剪り落す  大阪府 竹久カズエ(77歳)

紫陽花は咲くとボリュームがあります。かたまって咲く印象があります。早く咲いたところは早く色褪(あ)せてゆきます。そこのところを見逃さず剪り落とされた。作者のこころ持ちと行動が、一行十七音字の世界に過不足なく表現されています。特選に推しました理由です。

秀句

紫陽花の坂ゆるやかに友訪(とぶら)ひぬ  鹿児島県 山下朋子(76歳)

こういう日も、人生のある時に恵まれるのですね。訪ねようと思う友人がすこやかに暮らしておられる。その方はすこし坂をのぼってゆく場所に居を構えておられる。紫陽花の色に目を遊ばせながら、急がずにゆっくりと歩を進めてゆく。作者の充足感がよく伝わってくる句です。

君と入る紫陽花咲ける山道に   千葉県 保田隆夫(67歳)

これは恋の句。ときめきが伝わってきます。「君と入る」の上五。そして色鮮やかに咲き広がる紫陽花。その花が咲いている場所は山の道。さりげなく詠まれていますが、作者の気持ちの高ぶりがとても素直に、そして具体的に表現されていて素晴らしいと思いました。

釣瓶井戸残る農家や額の花   静岡県 山田幸次郎(89歳)

井戸がある農家は珍しくありません。しかし釣瓶(つるべ)のある井戸となると、現代ではめったにお目にかかれなくなっています。そんな懐かしい佇(たたず)まいの農家。そしてその古風な井戸のほとりには「額の花」が咲いている。それは普通の紫陽花に比べると地味ですが、清楚で品格のあるその花がこの句の決め手となりました。

父植えし紫陽花採りて墓参り  千葉県 宮沢道夫(67歳)

句意は明快。父や母の墓に参ることは誰でもできることですが、この作者、宮沢さんは父上が庭に植えられ、毎年賞(め)でてこられた遺愛のその紫陽花を剪って、墓前に向かわれたのです。父と子の絆が紫陽花を介してたっぷりと表現されている句で心に残りました。実体験を踏まえておられる句は強いですね。

窓開けて紫陽花眺め老夫婦   愛知県 尾澤希久子(66歳)

何でもない句。しかしこの老夫婦の佇まいはみごとです。年を重ねて、すこやかに穏やかに一日一日を大切に迎え、送っておられるひと組の夫婦。ご自身のことでも、またどなたかのことでもよいのです。窓辺に静かに並んで佇まれるお二人の姿が美しいですね。

5月のお題:新茶

【総評】
 今月もまた力作がたくさん寄せられました。ご投句の方々の年齢が80代。それも80代半ばから後半の方々が圧倒的に多かったことが印象的でした。お若い方々は急須に茶葉を入れてお茶を喫(の)むことを好まない。お茶を淹(い)れたのちの茶がらの処理が面倒で、自宅でもボトルのお茶を愛飲している方が多いのだと聞いております。今回、「新茶」の題に投句された方々が米寿前後のご長寿者でいらしたこと。それぞれに実感のこもった秀句であったこと。感銘を受けました。

特選

定年の友よりきたる新茶かな  北海道 千本教恵(61歳)

新茶が届きました。誰からでしょう。ああこの人。この度長らく勤めた場から定年で退いたあの人。と気づいて、しばしその友人の現在の心境などに想いをめぐらされたのでしょう。定年という人生の節目が効果的に一句の中にいかされていて、こころに残る作品でした。

秀句

羊羹の端っこが好き新茶汲む  大阪府 吉田尚子(77歳)

近頃、羊羹がまた好まれているようです。小型化してケースのデザインも愉しいものが出回っています。この句の羊羹はおそらく昔ながらの大型のもの。両端に糖分が固まっているものですね。甘党には新茶とのとり合わせが嬉しいのです。キッパリ言い切って共感を呼ぶ句となりました。

心から妻若やぎて新茶汲む   東京都 坂田誠太郎(73歳)

奥さんが若やいでおられる日。その様子を嬉しく見つめる夫のまなざし。この句のよろしさは何といっても、冒頭の「心から」。ここにあります。「心から妻若やぎて……」。夫人の汲まれた新茶を幸せな気分で満喫された男性の幸福感がたっぷりと表現されています。

妹の達者な証し新茶来る   東京都 羽住愛子(69歳)

毎年妹さんが新茶を送ってきて下さる。茶どころにおられるのでしょうか。「あっ、今年も……」。妹さんがすこやかでいらっしゃるからこその新茶の荷。達者な証し。ここに姉上としての喜びと安堵がさらりと言い留められていて、読み手も嬉しくなります。

新茶揉む母の背中に手をあてる  和歌山県 桝谷光代(60歳)

新茶汲む。新茶淹れるなどの句が圧倒的に多かったなかで、この句は「新茶揉(も)む」です。お茶の新芽を摘んで蒸しあげて、熱々の葉を両手でていねいに揉む。これが手揉み茶で、機械製とは異なる高級な新茶。その作業に打ち込まれる母上の背にそっと手をあててねぎらう娘の姿。いい句だなあと思いました。

正座して新茶の香り夫を待つ   宮城県 佐藤けい子(76歳)

ほのかにして得がたい新茶の香り。まずはご主人に味わっていただきたい。妻はきちんと正座してその人を待っているのです。さりげなく詠まれていますが、新茶という季節の恵み、そのよろこびを夫妻でわかち合うという、床(ゆか)しい気持ちの表れたじつによい句ですね。このようなご夫妻のあり方、とても素晴らしいですね。

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