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今月の一句

「ジパング倶楽部」会員様から投句いただいた作品を、選者の評とともに掲載します(敬称略)。

毎月下旬更新。

  • 特選に選ばれた作品は、氏名、住所(都道府県名)とともに本誌に掲載します。
  • 写真はイメージです。

選者

黒田杏子(くろだももこ)

東京女子大学入学と同時に山口青邨(せいそん)に入門。卒業後、定年まで博報堂で働く。『広告』編集長などを務め、瀬戸内寂聴をはじめ多くの文化人と親交を結ぶ。30歳から「日本列島桜花巡礼」を単独ですすめ、58歳で満行。「桜と巡礼」の俳人としても知られている。

  • 黒田杏子

今月の一句 応募要項

「今月の一句」は、お題に沿った俳句作品をお一人様3句まで(お題ひとつにつき1回限り)ご応募ください。採用者には、QUO(クオ)カードを進呈します。

9月のお題/とんぼ(7月10日締切。ハガキの場合は当日消印有効)
10月のお題/りんご(8月10日締切。ハガキの場合は当日消印有効)

  • 特選に選ばれた作品、氏名、住所(都道府県名)を本誌に掲載します。

入選作品発表

6月のお題:紫陽花

【総評】
 紫陽花を知らない方は居られないでしょう。紫陽花の名所も各地にあります。鎌倉の明月院は有名ですが、紫陽花は挿し木でも簡単に殖やせますから、道の両脇にこの花をびっしりと植えて、アジサイロードとしているところや、歴史のある寺社の参道をこの花で埋め尽くしているところも多いです。
 よく見ている。その花の風情を知っておられる。そうしますと却って、これという句、新鮮で人の心を打つ句は詠みにくいのかもしれないとも思ったことでした。

特選

紫陽花の褪せし一角剪り落す  大阪府 竹久カズエ(77歳)

紫陽花は咲くとボリュームがあります。かたまって咲く印象があります。早く咲いたところは早く色褪(あ)せてゆきます。そこのところを見逃さず剪り落とされた。作者のこころ持ちと行動が、一行十七音字の世界に過不足なく表現されています。特選に推しました理由です。

秀句

紫陽花の坂ゆるやかに友訪(とぶら)ひぬ  鹿児島県 山下朋子(76歳)

こういう日も、人生のある時に恵まれるのですね。訪ねようと思う友人がすこやかに暮らしておられる。その方はすこし坂をのぼってゆく場所に居を構えておられる。紫陽花の色に目を遊ばせながら、急がずにゆっくりと歩を進めてゆく。作者の充足感がよく伝わってくる句です。

君と入る紫陽花咲ける山道に   千葉県 保田隆夫(67歳)

これは恋の句。ときめきが伝わってきます。「君と入る」の上五。そして色鮮やかに咲き広がる紫陽花。その花が咲いている場所は山の道。さりげなく詠まれていますが、作者の気持ちの高ぶりがとても素直に、そして具体的に表現されていて素晴らしいと思いました。

釣瓶井戸残る農家や額の花   静岡県 山田幸次郎(89歳)

井戸がある農家は珍しくありません。しかし釣瓶(つるべ)のある井戸となると、現代ではめったにお目にかかれなくなっています。そんな懐かしい佇(たたず)まいの農家。そしてその古風な井戸のほとりには「額の花」が咲いている。それは普通の紫陽花に比べると地味ですが、清楚で品格のあるその花がこの句の決め手となりました。

父植えし紫陽花採りて墓参り  千葉県 宮沢道夫(67歳)

句意は明快。父や母の墓に参ることは誰でもできることですが、この作者、宮沢さんは父上が庭に植えられ、毎年賞(め)でてこられた遺愛のその紫陽花を剪って、墓前に向かわれたのです。父と子の絆が紫陽花を介してたっぷりと表現されている句で心に残りました。実体験を踏まえておられる句は強いですね。

窓開けて紫陽花眺め老夫婦   愛知県 尾澤希久子(66歳)

何でもない句。しかしこの老夫婦の佇まいはみごとです。年を重ねて、すこやかに穏やかに一日一日を大切に迎え、送っておられるひと組の夫婦。ご自身のことでも、またどなたかのことでもよいのです。窓辺に静かに並んで佇まれるお二人の姿が美しいですね。

5月のお題:新茶

【総評】
 今月もまた力作がたくさん寄せられました。ご投句の方々の年齢が80代。それも80代半ばから後半の方々が圧倒的に多かったことが印象的でした。お若い方々は急須に茶葉を入れてお茶を喫(の)むことを好まない。お茶を淹(い)れたのちの茶がらの処理が面倒で、自宅でもボトルのお茶を愛飲している方が多いのだと聞いております。今回、「新茶」の題に投句された方々が米寿前後のご長寿者でいらしたこと。それぞれに実感のこもった秀句であったこと。感銘を受けました。

特選

定年の友よりきたる新茶かな  北海道 千本教恵(61歳)

新茶が届きました。誰からでしょう。ああこの人。この度長らく勤めた場から定年で退いたあの人。と気づいて、しばしその友人の現在の心境などに想いをめぐらされたのでしょう。定年という人生の節目が効果的に一句の中にいかされていて、こころに残る作品でした。

秀句

羊羹の端っこが好き新茶汲む  大阪府 吉田尚子(77歳)

近頃、羊羹がまた好まれているようです。小型化してケースのデザインも愉しいものが出回っています。この句の羊羹はおそらく昔ながらの大型のもの。両端に糖分が固まっているものですね。甘党には新茶とのとり合わせが嬉しいのです。キッパリ言い切って共感を呼ぶ句となりました。

心から妻若やぎて新茶汲む   東京都 坂田誠太郎(73歳)

奥さんが若やいでおられる日。その様子を嬉しく見つめる夫のまなざし。この句のよろしさは何といっても、冒頭の「心から」。ここにあります。「心から妻若やぎて……」。夫人の汲まれた新茶を幸せな気分で満喫された男性の幸福感がたっぷりと表現されています。

妹の達者な証し新茶来る   東京都 羽住愛子(69歳)

毎年妹さんが新茶を送ってきて下さる。茶どころにおられるのでしょうか。「あっ、今年も……」。妹さんがすこやかでいらっしゃるからこその新茶の荷。達者な証し。ここに姉上としての喜びと安堵がさらりと言い留められていて、読み手も嬉しくなります。

新茶揉む母の背中に手をあてる  和歌山県 桝谷光代(60歳)

新茶汲む。新茶淹れるなどの句が圧倒的に多かったなかで、この句は「新茶揉(も)む」です。お茶の新芽を摘んで蒸しあげて、熱々の葉を両手でていねいに揉む。これが手揉み茶で、機械製とは異なる高級な新茶。その作業に打ち込まれる母上の背にそっと手をあててねぎらう娘の姿。いい句だなあと思いました。

正座して新茶の香り夫を待つ   宮城県 佐藤けい子(76歳)

ほのかにして得がたい新茶の香り。まずはご主人に味わっていただきたい。妻はきちんと正座してその人を待っているのです。さりげなく詠まれていますが、新茶という季節の恵み、そのよろこびを夫妻でわかち合うという、床(ゆか)しい気持ちの表れたじつによい句ですね。このようなご夫妻のあり方、とても素晴らしいですね。

4月のお題:桜

【総評】
雪月花は俳句表現の代表的なテーマであり、季語のなかの三つの柱です。とりわけ桜はよく詠まれてきました。私は「日本列島桜花巡礼」という「行(ぎょう)」を30歳の春から発心(ほっしん)。勤め人でしたので、27年間をかけて日本中の見るべき桜、出合うべき桜を満開時に訪ねてきました。80歳となった現在、その記憶はいよいよ鮮明です。単独行でしたので、桜の木とのツーショットはありません。俳句だけが残っています。今月の皆さまの句、それぞれにご立派でした。

特選

被災地の車窓にせまる山桜  栃木県 林 悦生(65歳)

これはみちのくの山桜でしょうね。新緑の山の中に点在する山桜の白さは印象的です。列車の窓に近々と山が続く。その山に溢れ咲く山桜。こころに沁(し)みる景観です。被災地と聞いて思い描く地は、みなさん異なるでしょう。この句は「せまる」という平仮名の三文字がよく働いているのです。

秀句

子に守られ人中をゆく桜かな  東京都 星野芳司(81歳)

花の名所に出かけられた。人混みは避けたいけれど、満開の桜にも逢いたい。お子さんにしっかりと腕を支えてもらって、万朶(ばんだ)の花を眼に収められた。「子に守られ」。「人中をゆく」。その折の状況、様子が過不足なく伝わってきます。作者の人生の中のある日ある時を一句に定着された秀句と思います。

厨閉じ老女ら集ふ花見かな   神奈川県 浦上由子(79歳)

台所仕事を切りあげて、さらにいえば、家のこと、家事などは投げ打って、仲のよい女性たちが花見の宴に集った。ということでしょう。「老女ら集ふ」と書かれていますが、どなたもいきいきと元気。厨(くりや)を守る現役の主婦でいらっしゃるのですから。俳諧味たっぷりの一行となっています。

一浪の二人の孫に桜咲く   北海道 山田洋子(75歳)

合格が叶わずやむなく一年の浪人生活を送られたお孫さん二人。この度はめでたくお二人揃って合格。その昔、合格者には「サクラサク」という電報が届いたもの。そのことも踏まえてお祖母さまのよろこびを鮮やかに詠みあげられた作品です。

回廊に中庭のあり糸桜  東京都 坂田誠太郎(73歳)

歴史のある建造物と思われます。その「糸桜」もさぞかし年輪のある名木なのではないでしょうか。糸桜は当然しだれ桜のこと。みごとな花の木を観賞できたその舞台が具体的に示されたことで、この句のよろしさがぐんと増したのです。

お母さんことしも桜咲きました   神奈川県 柴山 洋(76歳)

「お母さん」。と冒頭に置く句は珍しくはありません。今はこの世に居られない母上に向かって、何ごとかを伝える、告げる句はたくさんあります。「ことしも桜咲きました」と、この作者は天に向かって言っておられる。「ことしも」と書かれていることで、生前揃って花を見に毎年出かけておられたことも伝わってくるのです。

3月のお題:芽

【総評】
 「芽」という一文字からさまざまな句が生まれました。森に冬芽を見にゆく人。木々の芽吹きの音を聴きとめたいと希(こいねが)う人。てんぷらにしたら最高の楤(たら)の芽を摘んだ人。紫木蓮の巨(おお)きな芽ごしらえに目をとめた人。木の芽和をよろこび満喫する人。剪定で剪り落とす枝先の芽に申し訳ないと思う人。今月も、新鮮で存在感のある秀句が揃いました。それぞれの人生が豊かに反映されている句、素晴らしい作品群に圧倒されました。

特選

ポケットのルーペ冬芽の森散策  新潟県 吉野敬子(76歳)

さまざまな森の木々。その冬芽を観察するために、ルーペを持って森に入る。とても新鮮な句です。新潟県の方。森の中はまだ寒いでしょう。防寒具をきちんと身につけて出かけてゆく。76歳の作者の好奇心は素晴らしい。作者が女性であることも頼もしいですね。

秀句

補聴器よ聞かせて木々の芽吹く音  山口県 浅谷寿々也(86歳)

木々の芽吹く音を聴きたい。補聴器を使っておられる作者のこの若々しい発想。とても新鮮な句と思いました。実際に芽吹く音は聴きとれないのですが、早春の木々のざわめきを感じさせてくれます。そして何よりのこの句の魅力は、現代性がたっぷりということ。

ハンカチに楤の芽少し雨後の山   大阪府 吉田 穰(80歳)

楤の芽を「雨後の山」に見つけて、摘みとられた。そっとハンカチに包んで大切に持ち帰る。雨後の山がよく効いています。すべての木の芽が勢いを得ていきいきとみずみずしい。事実をありのままに詠みあげられてじつに気持ちのよい句になっています。

早々と芽拵へして紫木蓮   和歌山県 市ノ瀬伊久男(72歳)

木蓮は大きな花。そして紫木蓮(しもくれん)はとりわけ大きな花です。よく見て詠まれた句です。「芽拵(めごしら)え」という言葉がうまく使われています。花開けば巨大ともいえる紫木蓮。その花芽が読み手にもよく見えてきます。「早々と」、この書き出しもよかったと思います。

木の芽和妻の故郷の香りせり  千葉県 伴野丞計(74歳)

奥さまのふるさとはどこなのでしょうか。何かとても豊かな気持ちになった句でした。「木の芽和(あえ)」というものと故郷、それも「妻の故郷の香り」といわれて仲むつまじいご夫妻の暮らしが思われるのです。「芽」という題からこのようにこころのなごむ作品が生まれたこと、素晴らしいと思います。

枝先の芽も剪り落とす鬼となり   青森県 大川 知(70歳)

剪定(せんてい)という作業をされての作品でしょうか。木の枝を剪(き)り詰めてゆくとき、そこに生きている芽も剪ってゆく。その作業を進めるご自分を「鬼のようだ」と感じておられる句ですね。「枝先の」、この五音三文字がよく作者の想いを伝えてくれているのですね。

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