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今月の一句

「ジパング倶楽部」会員様から投句いただいた作品を、選者の評とともに掲載します(敬称略)。

毎月下旬更新。

  • 特選に選ばれた作品は、氏名、住所(都道府県名)とともに本誌に掲載します。
  • 写真はイメージです。

選者

黒田杏子(くろだももこ)

俳人。「藍生俳句会」主宰。東京女子大学入学と同時に山口青邨(せいそん)に入門。卒業後、定年まで博報堂で働く。『広告』編集長などを務め、瀬戸内寂聴をはじめ多くの文化人と親交を結ぶ。30歳から「日本列島桜花巡礼」を単独ですすめ、58歳で満行。「桜と巡礼」の俳人としても知られている。2020年「現代俳句大賞」受賞者。

  • 黒田杏子

今月の一句 応募要項

「今月の一句」は、お題に沿った俳句作品をお一人様3句まで(お題ひとつにつき1回限り)ご応募ください。採用者には、QUO(クオ)カードを進呈します。

8月のお題/西瓜(すいか)(6月10日締切。ハガキの場合は当日消印有効)
9月のお題/夜長(よなが)(7月10日締切。ハガキの場合は当日消印有効)

  • 特選に選ばれた作品、氏名、住所(都道府県名)を本誌に掲載します。

入選作品発表

5月のお題:五月

【総評】
ともかく、読後感のよろしい作品が揃いました。俳句を読んで、心身がすっきりする。ここちよい気分に包まれる。幸せな事ですね。生老病死・森羅万象を詠み、表現することのできる俳句はたった一行十七音字。世界最短の詩型であることは今やこの地球上の心あるすべての人々に認められています。俳句(HAIKU)は日本の国民文芸。私達日本人の共有財産です。句作のよろこび。そして選句のよろこび。「五月」の題もよかったですね。

特選

素足もて五月の土を踏んでみる  福岡県 紙田幻草(78歳)

作者は健康に恵まれています。78歳はまだまだお若いですが、素足になって五月の土をじかに踏んでみようという気分になれる方なのですから、すこやかで若々しい心の持ち主でいらっしゃる。この一行、五・七・五のありきたりな表現方法にのっとっておられません。しかしこの句の語調は作者のよろこびを読み手に過不足なく伝えてくれるものです。

秀句

耕運機五月の田んぼかえるとぶ  福井県 榎木紗代子(77歳)

この句の生命感はすばらしい。その耕運機に乗っておられるのが作者であっても、別人であってもよいのです。耕運機によって田んぼの土が耕されてゆく。土の中に眠っていた蛙がびっくりしてとび起き、田んぼの表面にとび出した。ともかく、この句の臨場感はすばらしい。鮮度たっぷりの一行です。

五月晴急流青き最上川   山形県 相馬孝子(82歳)

最上川は山形県の大河。松尾芭蕉も舟に乗って下りました。何とも気分のよろしいこの句、お国自慢とも読みとれますが、雲ひとつない五月晴の日に「急流青き」川を下っている作者の満足感、充足感が読み手によく伝わってきてここちよいですね。過ぎし日の体験を一行にされたものであってもよろしいのです。「五月」の題が生きています。

五月晴傘寿二人の昼餉かな  東京都 佐藤通子(81歳)

この句の幸福感を買います。揃ってすこやかに傘寿を迎えることが叶った。そしていま二人揃って昼ごはんを頂いています。ささやかなことに幸福感をたっぷり感じられること。それに勝るよろこびはないのです。もちろん、人それぞれ、嬉しいこと、愉しいことはさまざま。その日がまぶしいほどの五月晴であったこと。その事もよかったと思います。

古里に暮らすと決めし五月かな  千葉県 田原秀子(70歳)

「古里」は「ふるさと」と書いたほうがよろしいかと思いますが、70歳を迎えて、故郷に帰ることとされた。帰るふるさとがおありだったことは幸せです。旧友はもちろん、親せきの方々、ご縁のある方々もたくさんその地にはおられる。60歳還暦でなく、80歳傘寿でもない。70歳という節目のよろしさ。その重大事を五月に決められた。実に嬉しい決断でしたね。

開け放ち五月の風を通しけり  埼玉県 橋本隆子(76歳)

何だ。こんな句なら誰だって詠める。とお思いの方に申上げます。俳句は省略の文芸。言わずに言う事が叶えば最高。まずこの句から作者のお住まいが見えてきます。近年、思う存分住まいを開け放つことができる暮らしに恵まれている方は都会では少ないのです。風を通せる、つまり、一戸建てのお住まいでしょう。五月の風はまさに幸せの使者なのです。

4月のお題:蝶

【総評】
「蝶」という題に対して、どなたも立ちどころに、何か詠んでみよう、と思われるでしょう。果たしてバラエティ豊かな作品が集まりました。入選句を絞るのにちょっと苦労いたしました。どの句もそれぞれに味わいがあり、臨場感があったからです。秀句の中から秀吟を選ぶ。これもまたおもしろいことでした。手慣れた句、ありきたりな句がほとんどないということが、この欄へのご投句の特長。じつに楽しく選をすすめ、選評を記すことが出来ました。

特選

すれ違う蝶にも挨拶初出勤  香川県 玉井一郎(87歳)

「初出勤」。その時の作者の気持ちの高ぶりがとてもよく出ています。「すれ違う蝶にも挨拶」。これはなかなか言えません。緊張そして期待。こころの底にはよろこびという嬉しさが。作者の若き日の回想句でしょうか。それともお子様やお孫さんの身になって詠まれた句でしょうか。いずれにしてもとても読後のこころが豊かになる作品。秀吟です。

秀句

一人旅大紫の里に下車  埼玉県 小泉保夫(83歳)

大紫は日本の国蝶。旧仮名表記ですと、「おほむらさき」となります。私の第一句集『木の椅子』に、<磨崖佛おほむらさきを放ちけり>がありまして、教科書などにもよく取り上げられています。この句は佐渡に行き、小木(おぎ)港近くの宿根木(しゅくねぎ)というところにある海蝕洞穴の前で作りました。大紫の里は各地にあります。じつに美しい蝶です。

舞う蝶につられて歩く通院路   新潟県 野原豊子(83歳)

この句、下五の「通院路」が効いています。いつも行く路なのですが、思いがけずそこに蝶が舞っていた。こころが弾んで、常になくその路をいそいそとゆかれたのです。作者のほほえみが眼に浮かびます。こんなささやかな経験。ひらひらと舞う蝶の姿を眼にされて、ただちに一句を詠まれた作者に拍手を送ります。

菜の花を離れ黄蝶となりにけり  三重県 伊藤 元(89歳)

誰でも作れる句ではありません。菜の花の鮮やかな黄色。その花のあたりにいた蝶がパッと青空の下に舞い出でた。作者はその瞬間に、この一句を得られたのでしょう。蝶はもともと黄色の姿であったはずですが、このように詠み上げられますと、その黄蝶の姿が改めてまぶしく鮮やかに読み手の眼とこころに飛び込んできます。

この次は蝶に生まれて逢いにゆく  大阪府 内本惠美子(69歳)

恋の句と受け取ってもいいですね。その人の許(もと)へ、次の世で私は蝶となって、あなたさまをお訪ねしますよ。と言っておられます。転生という言葉があります。今は自分は人間としてこの世に生きております。しかし、次には……。人間ではなく別のいきものになって……という想い。「逢いにゆく」と止めたことで、この句にふくらみが出ました。

足場解く金属音や蝶の昼  静岡県 佐野明美(80歳)

「蝶の昼」という季語がとても巧く使われています。蝶々が舞うのは風もなくよく晴れた日の日中。そこに「足場解く金属音」という、とてもリアル、かつ現代的な場面を想わせる十二音を配しています。菜の花畑とか菜園ではない。そこがこの句のおもしろさであり、作者の意図は成功しています。現代の俳句作品という感じが出て新鮮でした。

3月のお題:卒業

【総評】
「卒業」という題がいろいろな角度から、バラエティ豊かに詠み上げられていました。それぞれに味わい深く、限られた句数しか取り上げられなかったことが残念でした。もともとは、「学校を卒業する」という意味の季語でしたが、今回のご投句を拝見して、人生の中の「卒業」という体験もいろいろと詠み上げられていて興味深いことでした。作者の心、想い、表現したいところが明確に伝わってくる作品をいただいて、愉しいことでした。

特選

二両目三番ドアの女学生卒業す  大阪府 西村明夫(78歳)

「卒業」という題を得て、このようにみずみずしい句を詠み上げられた78歳の男性作者に拍手を贈ります。若き日、その電車に毎朝その女子学生が乗っていたのです。若き日の作者はその人に逢うことがとても嬉しかった。生き甲斐だったのです。その思い出をこの一行にまとめられてよかったですね。俳句は心の玉手箱。この句に出合えて幸せです。

秀句

校庭に仰ぐ立山卆業す  富山県 梅島邦夫

日本列島各地に山があります。その山を仰いで過ごした日々。忘れがたいものです。「立山」と聞けばその山容が眼に浮かびます。校庭に立てば、名峰・立山が眼の前に。この一行はリズムもよく、読み手の心に一句の景がありありと見えてきます。まさに立山という固有名詞の恵み。

卒業の朝や娘の置手紙   山梨県 伊藤政雄(79歳)

置手紙の内容は分かりません。そこもまたこの句の良さなのです。ご両親への感謝の言葉が綴られているのかもしれませんが、卒業ののちのあり方の決意がしたためられているのかもしれません。置手紙であって、手渡されたものではない。そこに読者は興味と関心をそそられるのです。

喜寿すぎて髙尾のガイド卒業す  東京都 久保田英夫(80歳)

長らく務めてこられた髙尾山のガイド。その仕事を喜寿77歳も過ぎたので辞されたという句。「喜寿すぎて」と「卒業す」という言葉がよく響き合っています。現在は80歳傘寿(さんじゅ)でいらっしゃる。すこやかに日を重ねておられる方の句と受け取りました。「髙尾のガイド」という表現もこの句の存在感を高めています。

卒業の朝の廊下に光さす  香川県 鈴木惠美

さりげない句。しかし、「朝の廊下に光さす」。この表現はみごとで、この一行をとてもすがすがしいものにしています。幸福感のようなものも感じられて読後感がとてもよろしい。「朝の廊下」と「光さす」。この実体験がはっきり書かれたことで、この一句に臨場感が加わり、一句の存在感がぐんと増したのです。

廃校の島を離るる卒業生  岡山県 前田範子(78歳)

「廃校」という言葉は淋しいですね。その廃校の島を卒業生が出てゆくのです。ご自身の体験でも、他人のことでも、それはどちらでもよろしいのです。ともかく島の学校が廃校になった。その学校の卒業生が島を出てゆくのです。日本の各地に過疎の町や村があります。離島が無数にあるこの国の現実が詠まれているのだと思います。心に残る句でした。

2月のお題:薄氷

【総評】
「薄氷」。なんと美しい、こころに沁(し)みる季語でしょう。富山県の銘菓に「薄氷」という名の歴史のある逸品があり、全国の茶人の方にもてはやされています。じつにすばらしい品物で、機会があれば味わってみてください。さて、今月の作品もそれぞれに立派なものでした。ご投句の方は60歳以上。それぞれに季語「薄氷」の実体験をお持ちです。実体験と季語の記憶は俳句作者にとって何よりの武器。縦横に使いこなしてください。

特選

薄氷にとじ込められし泡ふたつ  新潟県 間野エリ子(81歳)

素朴な写生句。このような句の味わいは派手ではない分、深いともいえます。わざとらしいところはまったくありません。読み手の私たちも、いつかこの薄氷がとじ込めている小さなふたつの泡を見つめているような心地になってゆきます。この一行十七音字に無駄なことばはまったくない。事実を過不足なく詠(よ)み上げられてみごとです。

秀句

公園の落ち葉を抱いて薄氷  兵庫県 大黒政子(76歳)

薄氷の中に閉じ込められるものはいろいろあります。この句は公園で作られました。公園にはさまざまな樹木が植えられているでしょう。この葉はなんの木の落葉でしょうか。黄色い銀杏の落葉。紅(あか)いもみじの落葉、それぞれ氷に包まれて存在感を増しているはず。ところで落葉の「ち」は不要です。

薄氷紅富士写す山中湖   神奈川県 小林敏江(79歳)

紅富士が湖水に逆さまに映っている。静かでとても荘厳な印象があります。山中湖に映る富士山はじつに美しい。しかも湖面に薄氷が張っているのか、漂っているのか。ともかくまだまだ気温は低いのです。でも作者は山中湖まで出かけて行かれて、このまたとない光景を眼に収められたのです。旅の恵みですね。

薄氷を跨いで渡る受験生  奈良県 西田義雄(74歳)

この句のポイントは下五に置かれた「受験生」の三文字。女の子でもおじいさんでも一行は完成しますが、味わいに欠けます。受験生がなぜいいのか。この句にはどこかに「受験」という場面に臨む人と、あやうい、壊れやすい「薄氷」という二つの言葉の組み合わせが醸し出す、不安感のようなものが表現されているからだと思います。

薄氷そっと両手を差し出す子  岐阜県 河口洋二郎(67歳)

これもまた素直かつ素朴な句でいいですね。両手を差し出した子はまだ幼い。そっと。両手を。差し出す子。その場面がいきいきと鮮やかに活写されています。こわごわと、しかし好奇心溢れるその子の全身像と顔の表情も見えてきます。作者のその子に対する愛情もよく伝わってきます。心に残る作品。

犬小屋に水飲み鉢の薄氷  神奈川県 浅賀良雄(72歳)

この句も存在感があります。犬小屋「の」とされてもよいと思います。水飲み鉢という容器が具体的に提示され、それが置かれている場所もよく分かります。「薄氷」という題を見て、さっと浮かんだ一行なのではないでしょうか。俳句の基本は観察です。この観察を土台として作者の感性、詩心が一行の俳句を生み出すのです。

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