2022年1月21日
伝統とモダンが調和 地域の歴史や文化を体感
JR九州初の古民家を活用した宿泊施設として、
佐賀県鹿島市の古い町並みが残る肥前浜宿エリアに「茜さす 肥前浜宿」がオープンした。
築100年を超す歴史的建造物の魅力を尊重しつつ、非日常の空間で快適なくつろぎを感じられる
上質な空間を創出し、地域の歴史や文化を体感できる宿に生まれ変わった。
新たな宿泊施設の誕生に、滞在型観光の推進に取り組む地域の期待が寄せられている。(松尾 恭明記者)
「茜さす 肥前浜宿」外観(交通新聞社撮影©交通新聞社)
■多良街道の宿場町
肥前浜宿は、江戸時代に佐賀と長崎を結ぶ多良街道の宿場町として栄え、
昭和にかけて酒やしょうゆなどの醸造業が盛んに行われたエリア。
現在は同市 内にある五つの酒蔵のうち、富久千代酒造、光武酒造場が製造を続けている。
毎年3月末には市内の酒蔵が同時に蔵開きを行う「鹿島酒蔵ツーリズム」が開催され、
コロナ禍前の2018年度には2日間で約10万人が来訪。
イベントを運営する推進協議会は19年度の総務省主催「ふるさとづくり大賞」で最優秀賞を受賞している。
■建造物群保存地区
同街道沿いに土蔵造りの町家が軒を連ねる「肥前浜宿・酒蔵通り」は、
近くを流れる浜川を挟んだ茅葺(かやぶ)きの民家が密集する「肥前浜宿・茅葺の町並み」とともに、
歴史的に価値のある地域として、2006年に国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている。
■明治中期ごろ建築
酒蔵通りの一角に建つ「茜さす 肥前浜宿」は、
明治中期ごろに光武酒造場の別宅として建てられた入り母屋造り妻入りの木造2階建て。
その後、昭和後期から30年以上空き家だったところ、同保存地区認定に伴い08年にリフォームされ、
社員の厚生施設として利用されていた。
所有する同酒造場から同社が賃借し、昨年3月から半年間かけて内装全体の改修や耐震補強を実施。
建物の歴史や地域の特性を伝える部分を残しつつ、新たな価値を吹き込むように
伝統とモダンが調和する空間を創出した。
設計は古民家改修に実績のある魚谷繁礼建築研究所(京都市)が担当。
■「別荘」のように
客室は、1階の「有明の海」(約70平方㍍)と2階の「多良の峰」(約77平方㍍)の
計2室を設けているが、1棟貸しも可能。
正面玄関を入ると共有スペースが広がり、各客室は電子錠付きの扉で仕切られている。
「別荘」のように利用してもらおうと、常駐スタッフは置かず、
チェックイン・アウトはセルフ式を採用。共有スペースに飲食自由の地酒や地元産ドライフルーツなどの
おつまみを用意しているほか、高性能オーブンを備え、食材を持ち込んで簡単な調理もできるようにしている。
「有明の海」和室(交通新聞社撮影©交通新聞社)
「多良の峰」洋間(交通新聞社撮影©交通新聞社)
■伝統工芸品を展示
1階「有明の海」は和室と寝室の2部屋、2階「多良の峰」は洋間を加えた3部屋があり、
いずれも浴室にはぜいたくな木曽産ヒノキを使った浴槽を設けた。
寝室にはドイツ製の高級ベッドを備え、快適な寝心地を提供する。
共有スペースには、鹿島市をはじめ佐賀県で生産される陶磁器や木工品などが展示され、
伝統工芸に触れることもできる。2階客室の踊り場は、
天井を取り除いて小屋組みがむき出しになっており、古民家の特徴を生かした見どころの一つだ。
◇
管理は、地元有志でつくる肥前浜宿まちづくり公社(社長・光武博之光武酒造場社長)が担う。
食事希望者には朝食に限り、佐賀県の食材を使った郷土料理を中心とする
体に優しいこだわりのメニューが提供される。
宿泊料金は、1室(定員各4人)4万4000円から。
1棟貸し(定員8人)は7万7000円から。
予約は専用ウェブサイトで受け付ける。問い合わせは電話=(050)17432099=へ。